弁理士は特許や商標などの知的財産全般を扱うスペシャリストであり、合格率6%~8%の難関国家資格です。
法律の専門家ということでなんとなくイメージできる人もいるでしょうが、「具体的にどんなことをするの?」時になる方もいるはずです。
そこで今回は、弁理士の仕事内容や働き方、資格取得の難易度などについて詳しくご紹介してきます。
弁理士とは
弁理士は知的財産の専門家として主に特許出願に関する書類の作成や申請の代理を行う仕事です。
そもそも知的財産とは小説や音楽、絵画などの著作物や、企業のブランドロゴなどの商標といった「人間の知的活動によって創出された、財産的価値を有するアイデアや創作物」を指します。
弁理士は知的財産に関する法律の専門家として、権利侵害の対策や保護に向けたさまざまな手続きを担当します。
弁理士の勤務先としては特許事務所のほか、企業の知的財産部門などが一般的であり、特許事務所や企業での経験を活かして独立開業する弁理士もいます。
弁理士の仕事内容
弁理士の主な業務は申請書類の作成や手続きの代理ですが、その申請をするための先行案件の調査、申請が拒絶された後のアフターフォローも請け負います。
さらに、特許技術に関するコンサルティングや訴訟の代理、海外の知的財産権取得やライセンス契約交渉など、国内外問わず幅広く活躍しています。
ここでは、弁理士の具体的な仕事内容についてご紹介します。
知的財産に関する権利化業務
弁理士の代表的な仕事として、顧客のアイデアやデザイン、ブランド名、ロゴマークなどを権利化するために特許庁に提出する各種書類を作成するものが挙げられます。
この特許庁とのやり取りを行う業務(権利化業務)は、弁理士にのみ許された独占的な業務(専権業務)にあたります。
特許庁に提出する各種書類は顧客が権利を取得できるかどうか、また取得する権利の効力範囲に大きく関わる非常に重要な書類です。
権利化業務には法律の知識だけでなく経験に基づく高度なスキルが必要であり、弁理士の能力を示す仕事ともいえるでしょう。
知的財産に関する紛争解決
顧客が知的財産に関連する紛争に巻き込まれた際には、代理人として弁理士が解決に向けての役割を担います。
例えば、他社が自社の権利を侵害している場合や他社から権利侵害の警告を受けた場合などが挙げられます。
依頼主は法律の知識がないため、弁理士は何をすべきかや何を避けるべきかを、利益と不利益のバランスを見極めながらアドバイスします。
さらにもし訴訟に発展することがあれば、弁護士とも連携し、代理人として裁判所での手続きを行うこともあります。
拒絶後の再審査対応
弁理士の業務は知的財産権の出願書類を作成することだけではありません。
出願後、特許庁の審査官が一件ずつ審査を行い、その結果によっては特許が認められないケースもあります。
出願拒否を通知する拒絶理由通知書が届いた際には、弁理士が専門的な視点から様々な検討を行い、意見書や補正書などの新たな書類を作成して再審査に臨んだりします。
特許庁の審決に対して不服申し立てを行うこともでき、その場合、弁理士が訴訟代理人として企業や個人の立場を主張します。
海外での特許申請
国内で取得した知的財産権の適用範囲は国内に限られるため、日本で特許権や商標権を取得しても各国ごとに権利化の手続きを行う必要があります。
弁理士が日本の顧客に対して国内での権利化を支援する業務を内内業務と呼びます。
しかし一方で日本の顧客が海外で権利化を行い弁理士がこれをサポートするケースもあり、内外業務と呼ばれます。
また、日本での権利化を目指す外国のクライアントに対してもサービスを提供することがあり、この支援業務は外出業務とされています。
このように弁理士の仕事には海外に特許を申請する業務もあるため、海外の法律に関する知識や英語能力に精通したスキルが求められます。
弁理士の独占業務とその他の仕事内容、特許取得や非弁行為の意味を詳しく解説
弁理士のおもな勤務先
ここでは、弁理士の主な勤務先や働き方についてご紹介します。
特許事務所
弁理士の主な勤務先としてまず特許事務所での見習いとしての勤務が挙げられます。
特許事務所は規模が事務所ごとに大きく異なり、100名以上の職員を擁する事務所もあれば、数名の職員しかいない事務所もあります。
さらに、事務所の規模によって顧客層や請け負う業務の内容も一般的に異なります。
たとえば大規模な事務所では顧客は主に大企業であり、業務内容も特許、意匠、商標など、知的財産に関する多岐にわたる案件を扱います。
一方で、小規模な事務所では顧客は中小企業や個人が中心となり、知的財産の中でも特許や意匠など特定の分野に特化しているといった特徴があります。
特許事務所で最初に学ぶことは明細書などの書類作成であり、正確性が求められ、クライアントからの信頼を徐々に築いていくことになります。
企業の知的財産部
製品開発を行っている大企業の場合、自社内に法務部または知財部を設置していることが多く、弁理士は企業の知的財産部で働くケースもあります。
おもな業種としては製造業が中心ですが、最近では自社ブランド商品を開発・販売している小売業などでも募集していることが増えてきています。
とくに自社製品を扱う企業にとって自社の知的財産を守れるかどうかは、自社の運命を左右すると言っても過言ではありません。
そのため、専門家である弁理士は企業内での需要がタッ買う、さらにキャリアアップにより重要な役職を任されることもあります。
法律事務所
知的財産業務を扱う法律事務所もまた弁理士の勤務先となることがあります。
特許事務所と同様に国内や海外の出願業務を主に行っていることが多く、事務所の方針によっては鑑定や知的財産コンサルティングを行うこともあります。
さらに、侵害訴訟や審決取消訴訟を弁護士が行う際には、弁理士が代理人や補佐人として協力し、業務に取り組むことがあります。
法律事務所は弁護士の職場というイメージがありますが、知的財産案件を扱う場合には弁理士の専門的な知識が求められるため弁理士を採用するケースも少なくないのです。
特許庁
弁理士は特許庁で審査官、審査官補助、任期付特許審査官として働くこともあります。
主な業務として特許出願や意匠・商標登録出願の審査であり、その発明やロゴが新規性をもっているかどうかを確認します。
審査官になるためには弁理士資格に加え、国家公務員採用I種試験に合格しなければいけません。
また、任期付特許審査官としての勤務もあり、こちらは5年以内の期限付きです。
特許庁で働くメリットとしては特許の審査を行うことで、審査に通過しやすくするためのポイントを理解できることが挙げられます。
独立・開業
弁理士は独立して開業することができる職業です。
独立・開業した際の主な業務には、明細書の作成、期限の管理、年金の管理などがあり、仕事内容は多岐にわたります。
独立・開業のメリットとしては特許関連の業務に制約されることなく、セミナーの講師、講演、書籍の執筆、メディアへの出演など、行動力と営業力次第で仕事の幅を広げることができる点が挙げられます。
また、特許出願を依頼したい企業や研究者は、日本国内だけでなく海外にも広げられます。
英語のスキルと行動力があれば、海外市場を視野に入れた事業展開もできるでしょう。
ただし、独立・開業する場合弁理士としての知識だけでなく、事務所を運営するための経営力や顧客を獲得するための営業力も求められるため相当な努力が必要となります。
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弁理士の平均年収は700万円程度
厚生労働省のデータによると、弁理士の平均年収は765.3万円と公表されています。
日本の平均年収は400万円程度となっていることから、弁理士の年収は高く設定されていることがわかります。
しかし実際には300万円から1000万円以上までの幅があり、勤務先によって給与基準は異なります。
たとえば大手企業の場合だと900万円を得ることができ、独立または開業すれば1000万円以上を稼げるとも言われています。
一方、中小企業では700万円に満たない人も少なくなく、年齢や経験年数などによっても変わっていくと考えられます。
一般的には年齢が上がるにつれて経験も増え、職場での昇進の可能性も高くなっていく傾向にあります。
なお特許事務所に勤務する場合、特許手続きの経験があると優遇されます。
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弁理士になるには弁理士試験への合格が必要
受験願書提出 | 3月中旬~4月上旬 |
---|---|
短答式筆記試験 |
|
論文式筆記試験 |
|
口述試験 |
|
最終合格発表 | 10月下旬~11月上旬頃 |
合格証書発送 | 11月上旬頃 |
受験資格 | なし |
受験手数料 | 特許印紙:12,000円 |
ここではそれぞれの試験の内容と合格率・勉強時間などについて紹介します。
試験(試験日程) | 特徴 | 合格率 |
---|---|---|
短答式 |
| 10%~18 % |
論文式 |
| 25%程度 |
口述式 |
| 90%以上 |
弁理士の合格率は6%程度
前年度も最終合格率は6.1%ですから、毎年合格率は大きく変わらないという結果となりました。
合格率はかなり低いため、しっかりと対策を練る必要があります。
過去7年の弁理士の合格率の推移を、以下の表にまとめました。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
令和6年(2024年) | 3,502人 | 191人 | 6.0% |
令和5年(2023年) | 3,065人 | 188人 | 6.1% |
令和4年(2022年) | 3,177人 | 193人 | 6.1% |
令和3年(2021年) | 3,248人 | 199人 | 6.1% |
令和2年(2020年) | 2,947人 | 287人 | 9.7% |
令和元年(2019年) | 3,488人 | 284人 | 8.1% |
平成30年(2018年) | 3,587人 | 260人 | 7.2% |
平成29年(2017年) | 3,912人 | 255人 | 6.5% |
参照元:特許庁『弁理士試験 過去の試験結果』
令和5年(2023年)~令和3年(2021年)の3年間の合格率は6.1%でした。
それ以前は6%~8%を推移しています。
しかし、基本的に合格率が10%を上回ることはなく、難易度は毎年高いと考えて良いでしょう。
特に直近では、過去と比べて難易度が高い傾向にあるため入念な準備が必要です。
弁理士試験の難易度は高い?他資格との比較や合格率について解説
弁理士試験の合格に必要な勉強時間は3,000時間程度
弁理士試験に合格するために必要な勉強時間の目安は3,000時間とされています。
たとえば1日5時間の勉強を行う場合、約1年半で達成できる鋳込みであり、1日10時間の勉強であれば1年以内に達成できます。
しかし、実際には1日5~10時間の勉強時間を確保できる人は少なく働きながらや通学の場合だと学習時間を確保できないので、多くの人が数年をかけて合格を決めるパターンが多いです。
また弁理士の特徴として弁護士または行政書士の資格を持ち、ダブルライセンスを保持して特許関連業務に従事する人もたくさんいます。
さらに弁護士または裁判外紛争解決手続(ADR)における調停手続業務を行う資格を持つ行政書士であれば、特許出願業務を円滑に進めることができ、いざという時の紛争解決にも役立ちます。
弁理士資格を取得するメリット3つ
ここでは、弁理士資格を取得するメリットについて紹介します。
メリット➀高収入を目指せる
先にも述べたように弁理士の年収は700万円程度となり、一般的なサラリーマンと比較すると高収入を目指せる可能性が高いです。
企業に勤務する場合でも、専門性の高い資格として手当を受け取ったり、昇進の機会が増えたりします。
さらに独立して事業が成功すれば、年収1000万円以上も十分に狙えるでしょう。
もちろん、特許事務所や企業での勤務の場合、給与水準は勤務先によって異なるため、全ての人が年収700万円前後であるわけではありません。
しかし専門的な資格を持つことで人材としての価値が上がるため、無資格者と比較すると高年収につながりやすいことは間違いないでしょう。
メリット➁キャリアの選択肢が増える
弁理士の代表的な就職先として特許事務所・企業内弁理士・独立開業という3つの選択肢があります。
一般的な会社員よりもキャリアの選択肢が豊富なので、転職や就職でも有利に働きやすいと考えられます。
例えば、企業内弁理士として勤務する場合、社内の商品開発から生まれた知的財産の権利化や自社ブランドを保護するための模倣品対策など、様々な経験を積むことができるでしょう。
そこで実務経験を積むことで大手特許事務所への転職や、築いたネットワークを活かして独立開業するなど、新たなキャリアの選択肢が生まれるためさまざまな可能性を残しておきたい人にとって弁理士はおすすめです。
メリット➂あらゆる業界での需要が高い
昨今では弁理士の職務は国内に限らず、海外においても需要が高まりつつあります。
物流や通信の急速な発展により、グローバルに事業を展開する企業が増え、知的財産に対する国際的な対応が求められるようになったためです。
さらに今後も多様な業界において弁理士の重要性が増すと考えられています。
英語力を磨き、知的財産に関する国際的な対応ができるようになれば、スペシャリストとしての自身の市場価値を高められるでしょう。
弁理士に向いている人
弁理士は最新の発明や技術に触れる専門職であるため、物事に対して好奇心を持ち、常にニュースをチェックする勉強熱心な人が向いています。
また書類業務が多いため細かい作業に苦痛を感じない人、同時にクライアントから発明内容を引き出すなどの対人関係構築能力も必要です。
さらに物事に関する予期しない発見をすることや、他者が見落としている点を見つけて指摘できる能力もあると望ましいでしょう。
なぜなら弁理士の仕事にはクライアントの発明が既存の製品と異なることを主張するために、既存品にどのような未発見の欠陥があるのかを説得力を持って指摘する能力が求められるからです。
弁理士の将来性
弁理士は特許に関する専門家であり、将来的にはその需要が増加すると見込まれています。
なぜなら科学技術の進展と地球規模でのグローバル化に伴い、特許に関連する競争が激化しているためです。
IT分野だけでなく、医療分野においても技術開発が活発に行われており、特許権を取得しようと努力しています。
また日本の企業は国際的な競争に直面しており、海外で特許権を取得する「国際出願」が必要とされています。
「国際出願」は今後さらに増える見込みなので特許事務所が海外での活動を拡大すれば、弁理士の将来性は一層高まるといえるでしょう。
弁理士試験合格にはアガルートの通信講座がおすすめ
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短答式試験のためのインプット学習だけでなく、アウトプット学習も徹底対策しているので、論文式試験も自信を持って望めます。
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通信講座であるためどなたでも受講しやすく、まさに弁理士試験合格のための最適解と言えるでしょう。